02. 正装 −あなたのために−
ある日、天真はあかねを訪ねて来た。
彼女の名を何度も呼ぶが、あかねの姿は何処にも無い。
呆然としていると、女房の一人が天真の元へとやって来た。
「もうしばらく待っていて欲しいと神子殿が仰っています」
その一言だけ残し、その女房は去って行った。
天真は多少疑問に思いながらも、言われたままに待っていた。
しばらくすると、後ろから声が聞こえた。
「天真君・・・」
天真は、振り返ってその声の主を見た。
「あかね」
そこには、ずっと待っていたあかねが簾越しにいた。
その簾の後ろから何故か顔だけを覗かせ、天真を見つめる。
「どうしたんだ、そんな所に隠れて」
隠れるあかねに、天真は尋ねる。
「あ、あのね・・・」
あかねは、少し照れたように頬を赤く染めた。
「天真君に見てもらいたくて」
そう言って、簾の後ろから姿を現した。
「うわ・・・」
そのあかねの姿を見た天真は、驚きの声を上げる。
彼女は、十二単を着ていた。
「ど、どうかな」
あかねは、よりいっそうと頬を赤く染め天真に尋ねる。
「に、似合ってるよ」
天真は照れてしまい、横を向く。
「女房さんに手伝ってもらって着たんだ」
そう言ってあかねは、天真に笑顔を向ける。
そして、天真の方へと歩き始めたその時・・・
「きゃあ・・・」
あかねは、重いその着物に躓き転びそうになった。
そんなあかねを、天真は慌てて抱き支える。
「大丈夫か」
「うん」
間一髪の所で、なんとかあかねは転ばずにすんだ。
抱き支えられたまま、あかねは天真と目が合った。
「ありがとう」
「こんなかっこで無理するなよな」
御礼を言ったあかねを、天真は心配そうに見つめる。
心配そうに・・・愛しいそうに・・・見つめている。
「・・・可愛いな」
天真はあかねを愛しそうに見つめながら、そう呟く。
「俺のために着てくれたんだろ」
「もちろんだよ」
「・・・嬉しい」
二人は見つめ合う・・・その距離は、だんだんと近づいて行く。
「あかね」
天真は彼女の名を呼び、その唇にそっと口付けた。
あかねは愛しい人のために、十二単を着た。
その着物は、とても重い・・・けれど、愛はその重さをも掻き消した。
平安の正装、それは十二単・・・美しい着物・・・・・
【完】
またも、恋人同士な二人のお話。かなり久々の天あかです。
とにかく可愛いあかねちゃんが書きたくて、こんな感じの話に(041015)