11. 移り香 −疑いの夜−
それは、満月の夜の出来事。
「ただいま」
友雅が簾を潜り、あかねの元へと帰って来た。
「お帰りなさい」
あかねは、笑顔で友雅を向かえ入れる。
「寂しかったかい?」
帰るのが遅くなった友雅は、あかねに尋ねる。
「そ、そんな事ないです・・・」
あかねは素直に答えなかったので、声が裏返ってしまった。
「嘘を言ってはいけないよ」
あかねの嘘は、すぐに友雅に見破られてしまった。
「・・・・・」
あかねはどうしようもなくなり、黙ってしまう。
「まあ、いいよ」
そう言って友雅は、ふふ・・・っと笑った。
「きゃっ・・・」
笑っていた友雅が、突然あかねを抱きしめた。
「と、友雅さん?」
あかねはその突然の出来事に驚いた。
「いいじゃないか」
驚くあかねに対し、友雅はいつもの様に笑っている。
「でも・・・」
こんな風に抱きしめられる事に未だなれないあかねは、真っ赤になった。
「・・・・・」
あかねは、照れて黙ってしまった。
「・・・おや?」
突然、黙ったままだったあかねが友雅を抱きしめ返した。
「ふふ。嬉しいね」
友雅もより一層あかねを強く抱きしめる。
(あれ・・・)
その時あかねはある事に気が付き、心の中で言の葉になる。
(この香の香り・・・)
そう・・・友雅の着物香ってくる香の異変に気が付いたのだ。
(いつも友雅さんが使ってる香じゃない・・・)
あかねは戸惑い、心の中は色々な想いが駆け巡っていた。
(誰の香の香りなの・・・?)
友雅の着物の移り香に、あかねの表情は曇る。
「どうしたんだい?」
友雅はあかねの様子が変わった事に気付き、尋ねる。
「い、いえ。なんでもないんです」
あかねは、またも素直に言わなかった。
「そうかい・・・?」
友雅は、少し疑問に思いながらも納得した様だった。
「大丈夫です。気にしないで下さい」
あかねは、友雅に笑顔で言う。
「あ。そうだった・・・」
友雅が何か思い出したように言った。
「これを君に渡そうと思ってね」
そう言いながら、取り出した物をあかねに渡す。
「これは・・・?」
手渡されたその小さな箱を見たあかねは、尋ねる。
「あけてごらん」
友雅に言われるまま、あかねは箱を開けた。
「わあ・・・」
箱を開けたあかねは、声を上げる。
「君に似合いそうな香りだったからね」
友雅がそう言ったその箱の中の物は、香だった。
「私にですか・・・?」
あかねは、何故か少し不安げな表情で友雅に尋ねる。
「もちろんだよ。」
そう言われて、あかねは嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
友雅に御礼を言った時、その香の香りがあかねを包み込んだ。
(あっ・・・)
あかねは、その香の香りに驚いた。
(これはさっきの・・・)
そう・・・それは先程の香の香りと同じだった。
(この香の香りが友雅さんの着物に移ったんだ・・・)
あかねは、一人で納得していた。
(でも私ったら、友雅さんを疑うなんて・・・)
あかねの心は、痛んだ。
「と、友雅さん・・・」
あかねは、彼の名を静かに呼んだ。
「なんだい?」
友雅が、あかねの瞳を見つめる。
「ごめんなさい」
あかねは、突然に謝った。
「何がだい?」
友雅は、御礼のすぐ後の謝罪に戸惑う。
「なんでもないんです・・・ただ、ごめんなさい」
あかねは横に首を振りながら言った。
「・・・・・」
友雅はあかねの不思議な様子に驚き黙ってしまう。
「友雅さん」
黙ってしまった友雅をあかねが呼びかけた。
「・・・大好きです」
あかねは、素直に言った。
「嬉しいね。私もだよ・・・」
友雅は、様子のおかしいあかねの全てを包み込む様に答えた。
【完】
友雅さんの浮気を疑うあかねちゃん!!って感じの話です。
なんか、ラストは無理矢理終わらせたみたいですよね(041128)