36. 衣擦れ −あなたの存在−
あなたが、私の目の前を歩いている。
とても愛しい、あなたの背中に見惚れてしまう。
あなたの姿を見つめるだけで、顔が火照ってゆく。
「泰明さん」
聞き取れないほどの小さな声で、あなたの名前を呼ぶ。
あなたは気付かずに、そのまま歩いている。
あなたが歩くたびに、かすかに聞こえてくる衣擦れの音。
耳にそっと響くその音が、何とも言えず心地いい。
「どうした?」
あなたに見惚れて、他の物が見えなくなった私にあなたが尋ねる。
「なんでもないんです」
私は慌てて、そう答えた。
「そうか」
あなたはそう言って、また歩き始めた。
けれど、また立ち止まった。
「・・・えっ」
急に起こったその出来事に私は声をあげた。
あなたは、私の手をそっと握ってきた。
そして、こう言った・・・・・
「お前が逸れてしまわない様に」
あなたの声が、私の頭に降りそそがれてゆく。
歩くたび聞こえる衣擦れの音が、胸の高鳴りをより強くさせる。
あなたと二人で町を歩く、それでけでとても幸せ。
【完】
もう、めちゃめちゃ恋人同士で・・・ラヴラヴなんですよ!!二人は。
この後、ずっと手を繋いだまま京を歩きつづける事でしょう(050516)