42. いにしへの京(みやこ) −過ぎ去った幻影−
昔々、この場所には「京」と言う名の美しい都があった。
今はもう、その跡形さえも全て消え・・・何も残ってはいない。
京は沢山の人々で賑わい、活気に満ち溢れていた・・・
そして、季節が変わる度に、様々な表情を見せ色づいていく木々たち。
その姿は、今となっては何処にも感じられない。
この場所に、本当に京が存在していたのだろうかと思うほどに。
町も、人も、木々たちも・・・本当に全てのものが消えてしまった。
美しい都の姿が全て消え、何もないこの場所・・・
「どうして?」
どうして、京は消えてしまったの?
想いは、募ってゆく。
かつてこの場所にあった、美しい都。
私の大好きな町、大好きな人々。そして・・・最愛の人。
すべてが、大切な存在だったのに・・・
「すべて幻だったの?」
何も無い場所に佇む。
どんどん、心が苦しくなってくる。
過ぎ去ってしまった、あの日々を想い・・・
大粒の涙が、瞳から溢れてゆく。
「・・・み・・」
何処からか、声が聞こえた。
「誰、誰なの?」
私は、誰もいないはずの場所で、大声で叫んだ。
「・・・こ」
小さく聞こえるその声は、中々聞き取れなかった。
「・・・神子」
今、はっきりと聞こえた。
その声は、私を呼んでいる。
「神子、ここにいたのか」
「・・・泰明さんっっ」
その声は泰明さんだった。
彼に会うのは、何年ぶりだろうか。
嬉しさと共に、懐かしささえ感じる。
「本当に、本当に泰明さんなのっ?」
私は彼の元へ駆け寄った。
その存在を確めるように、私は彼を見つめる。
愛しく、懐かしく、彼を見つめる。
すると彼は、私を見つめ返してくれた。
優しく、見守るように見つめてくれた。
「お前をずっと捜していた」
「泰明さん・・・もう、会えないかと思った」
今までの想いが、一気に溢れ出した。
泰明さんは、私を強く・・・抱きしめた。
そして・・・
「お前は、ひとりではない」
私の耳元で、そう言ってくれた。
あなたに会えた幸せで、勇気が心に溢れる。
いつかきっと、京の都が蘇る、そんな気がする。
最愛のあなたと、きっと・・・京へ。
消えた京の都、いにしへの京へ、想いを募らせ・・・
【完】
最近全く小説を書いてなかったので、一年ぶりくらいに書く泰あかの様な気が。
色々な謎を残しつつ終わらせました。ホントは続きもあるんですけどね(060428)