四月一日の午前中は、軽いいたずらで嘘をつく事も許される。 神子の世界では、そんな風習があると言う。 でも私は、その事をまだ知らなかった・・・・・ ![]() それは・・・春の風がそっと吹く、暖かな日だった。 桜の花びらが、ひらひらと地上へ舞い落ちていた。 「おはようございます、神子」 永泉は、朝の太陽に照らされながらあかねの元へやって来た。 「あ、永泉さん・・・おはようございます」 あかねの声は、何故か元気が無いようだった。 表情がとても暗かった為、永泉は心配になり尋ねてみた。 「神子、どうかされたのですか?」 永泉の問いに、あかねは俯いたまま答えた。 「・・・永泉さんに、話があるんです」 あかねは暗い表情の中に真剣な眼差しを持ち、永泉に話した。 「あ、あの・・・神子?」 あかねのあまりにも真剣なその表情に、永泉は戸惑う。 「永泉さん・・・聞いて下さい」 あかねは、永泉の戸惑いなど気にしない様子で話を続けた。 「私、永泉さんの事・・・」 あかねは頭を下に向けた・・・ けれど、すぐにその頭を上げ決定的な言葉を言う。 「永泉さんの事、好きじゃなくなったんです」 あかねの言葉に、永泉は彼女の顔をじっと見つめた。 「み、神子?!」 何故、突然そんな事を言うのか・・・ 永泉の戸惑いは、より一層と・・・確実な物となり強まっていった。 あまりの衝撃に、地面を向きあかねの顔を見れなくなった。 「・・・なんて、嘘です」 戸惑い・・・俯いた永泉に、あかねはそう言った。 「・・・えっ?」 あかねのその言葉に、永泉は思わず顔を上げた。 「あ、あの・・・どういうことなのでしょうか」 永泉は、恐る恐るあかねに尋ねた。 「驚かせてごめんなさい」 あかねはまず謝ってから、何故嘘をついたのかを話す。 「えいぷりる、ふうる・・・ですか?」 「はい、エイプリルフールです」 永泉の問いに、あかねは簡潔に答える。 「それは、なんでしょうか?」 「一年に一度、嘘をついても許される日です」 エイプリルフール・・・その詳しい説明をあかねは続けた。 彼女の話を真剣に聞いていた永泉だったが、京の者には聞きなれない言葉で、より戸惑う様子を見せる。 「・・・・・」 あかねの話を聞いた永泉は、黙ってしまった。 黙ったまま立ち尽くしていた、その時・・・・・ 「・・・え、永泉さん?」 その永泉の姿を見たあかねは、驚いた。 永泉の瞳からは、大粒の涙が零れ落ちていたのだ。 「ご、ごめんなさい。私、そんなつもりじゃ・・・」 永泉の涙に、あかねは慌てた。 「・・・神子に嫌われてしまったのかと思って」 永泉は涙を流しながら、あかねに言った。 「良かった。嘘で、良かった・・・」 永泉が泣きながら言ったその言葉は、心から言った本当の気持ちだ。 そんな永泉を見て、あかねは申し訳なさそうな顔をして言った・・・ 「永泉さん・・・本当にごめんなさい」 あかねはそう言った後、俯いてしまった。 でも、俯いた顔をすぐに上げて話を続けた。 「本当は、永泉さんの事が大好きです」 「神子・・・」 「これは嘘じゃないです」 あかねは、必死な表情で永泉に言った。 「私もあなたが大好きですよ・・・神子」 永泉はあかねの嘘をすべて許した様な笑顔で、にっこりと微笑んだ。 エイプリルフール・・・二人の愛が、より強まった日。 【完】 |