それは、ある初夏の日の出来事・・・ ![]() この日の京は、とても晴れていて陽が燦燦と降り注ぎ、眩しい日差しと爽やかな風が絶妙な加減に、京の都を心地よい場所にしている。 そんな日に、二人の男女は久方振りに再会したのだった・・・ 「あかね」 その時、一人で町を歩いていた少女の背中の方から、彼女を呼び止める男の声が聞こえた。 あかねが振り返ると、そこには友雅が立っていた。 「友雅さん・・・」 突然の出来事に、彼女は驚いた様子でその男の名を呼んだ後、黙ってしまった。 二人はそのまま、しばらく見つめ合い・・・そして、友雅の方からあかねに話し掛ける。 「君に会うのは、二ヶ月ぶりくらいか・・・」 「そうですね」 友雅の問いに、あかねはすばやく答えた。 「とても君に会いたかったよ」 「私もです」 お互いにとても忙しく、二人はずっと会えずにいた。 会いたくても、会えない。自分の事だけで、精一杯だったからだ。 「・・・元気にしていたか?」 「はい・・・友雅さんは?」 「私は見ての通り、相変わらずだよ」 そう言って友雅は、あかねに優しく微笑みかける。 「そうですか・・・良かったです」 あかねは、ほっとしていた。 会えない間にも、ずっと彼の事が心配で堪らなくなり、眠れぬ夜も多々合ったからだ。 「あ、あの・・・」 あかねは、友雅の顔を覗き込む。 「何だい?」 「その・・・」 彼女の言葉は続かない・・・・・ 何から話せば良いのだろう。そう思って、言葉が浮かばなくなってしまう。 たった二ヶ月でも、あかねにとってはとても長い時間で、あまりに久しぶりの再会に言葉が消えてしまっている。 会いたくて・・・会いたくて、ずっと胸が苦しかった・・・。 その想いを、どうやって言葉にして伝えればいいのだろうかと彼女の心の中は複雑に絡まってしまっていた。 「どうしたんだい?」 友雅は、悩んでしまい黙ったまま俯いてしまったあかねの事を、心配そうに見つめる。 「と、友雅さんっ」 彼の名を呼び、あかねは泣きながら彼の胸に抱きついた。 自分の事を心配している彼の姿を見て、あかねはとうとう泣き出してしまったのだ。 そのまま泣き続けるあかねを、友雅は優しく・・・そっと抱きしめ、無言のまま彼女を愛しい眼差しで見つめていた。 そして、しばらくたって・・・あかねはようやく落ち着いて来た・・・ 「ほら、あかね。もう泣かないで」 友雅は、自分の衣の袖でそっとあかねの涙を拭う。 「友雅さん。私・・・わたし・・・」 「何だい?」 友雅に優しく抱きしめられているあかねは、今の自分の想いのすべてを、彼に伝えようとする。 「私・・・ずっと、ずっと友雅さんに会いたくて・・・だからとても嬉しいんです。なのに、こんな風に泣いちゃって・・・心配かけてごめんなさい」 あかねは、今自分の心にある想い・・・言葉を、ひとつひとつゆっくりと、友雅に伝えた。 「君が謝る事は無いよ。ずっと会えなくて寂しかったんだね。私も、とても寂しかった。ずっと君に会いたかったのだから・・・」 「友雅さん・・・」 二人は、強く・・・強く、抱きしめ合った。 お互いの体温が感じ取れるほどに、強く・・・強く・・・抱きしめ合った。 「君に再び会えて、本当に嬉しいよ・・・あかね」 「私もです」 「・・・君は、私の最愛の女性だよ」 そう言って友雅は、そっとあかねの額に口づける・・・そして、その口づけは、頬・・・唇へと・・・・・ 最愛の人に再会した二人は、とても・・・とても、幸せに満ちていた。 それは、ある初夏の日の出来事・・・ 【完】 |