![]() そこには風が吹いていた。 雲は流れ、太陽が見え隠れしている。 「おや・・・」 町へとやって来た男が、その異変に気がつく。 何故かその京の町には、人影が全く無く・・・誰もいなかったのだ。 ここは、いつもは大勢の人で賑わっているはずの町の中心。 しかし今は、同じ場所とは思えないほど静かだった。 「おかしいね」 あまりに静寂なその町に、男は辺りを見まわす。 「鬼か・・・」 男は、やはりおかしい町の様子にそう呟いた。 「友雅さん」 その時、その男の背後から自分の名を呼ぶ少女の声が聞こえた。 「・・・あかね」 友雅は振り返って、その少女の名を呼んだ。 「どうしたんだい?・・・こんな所で」 友雅は、あかねに尋ねる。 「友雅さんを探していたんです」 あかねは微笑みかけながら、そう答えた。 ――― ガタッッ・・・ その時、誰もいないはずの民家の中から大きな音が聞こえた。 「友雅さん」 あかねは、怯えたように友雅の背へと隠れた。 「大丈夫だよ」 友雅は怯えたあかねにそう言って、民家の方へと近づく。 「友雅さんっっ」 友雅を心配したあかねは、慌てて友雅を呼び止める。 その時だった・・・民家の中がパァッと明るく光った。 その光は、目を開いていられないほど強かった。 「・・・・・」 眩しさに目を閉じてしまっていた友雅が、光がだんだんと弱くなってきたのでそっと目を開いた。そして、目にした光景を見て・・・驚いた。 友雅がいた辺りの様子が、がらりと変わっていたのだ。 「・・・・・」 友雅の見たその町は、いつものように大勢の人で賑わっていた。 その光景を目にした友雅は、驚きのあまり黙ってしまったままでいる。 「友雅さん」 戸惑ったままの友雅の前には、あかねが微笑みながら立っていた。 「あかね」 友雅は今までは何だったのだろうと疑問に思いながらも、あかねにそっと微笑み返した。 「・・・・・」 今まで友雅が見ていたものが、夢だったのか・・・幻だったのか・・・それは誰にも分からない。 もしかしたらそれは、白昼夢だったのかもしれない・・・・・ 【完】 |