![]() 「いよいよ今日ですね。花火大会」 そう言って満面の笑みを浮かべながら、あかねは泰明の元へと駆け足でやって来た。 それは、とても晴れた日の午後だった・・・・・ 「すごく楽しみだったんです」 あかねは、とても嬉しそうに泰明に話し掛ける。 「私もだ」 少し照れた表情になりながら、泰明もそう小声で答えた。 「それにしても、今日はとても暑いですね」 「ああ」 その日は今年一番の暑さとも言える、とても暑い日だった。 「早く夜になると良いのに」 「そうだな」 暑さから早く涼しくなって欲しいのと、花火大会の待ち遠しさ・・・そんな思いで、二人は夜がとても恋しくなっていた。 二人はそんな思いの中、京の町をただのんびりと歩いていた。 買物をしたり・・・御茶を飲んだり・・・二人で美しい都を楽しんだ。 「あっ」 ふと空を見上げたあかねは、小さく声をあげた。 あかねの見上げている空は、今にも太陽が沈んでしまいそうな・・・綺麗な夕暮れになっていた。 「本当にもうすぐなんですね」 「そうだな」 青空に咲く太陽と言う花が、夜空に咲く花火へと変わる時が、刻刻と近づいて来ていた。 二人は、もうすぐ花火が打ち上がる夕暮れの空を見上げる。 「楽しみですね。花火」 そうあかねが言うと、二人は花火大会の行なわれる会場へ向かってゆっくりと歩き始めた。 「ああ。本当に楽しみだな」 歩く二人は、そっとお互いの手をつないでいた・・・・・ 「でも・・・」 泰明はあかねには聞こえないほどの小さな声で呟く。そして・・・ きっと・・・どんなに美しい花火より、私にはお前の方が美しく見える。 私は花火を見に向かう途中、そんな事ばかり考えていた。 そんな時にもお前は、満面の笑みで私を見つめている。 私の心に咲き乱れる、お前と言う「華」に・・・今、火がついた。 心の中で、そう・・・呟いたのだった。 【完】 |